
おはようございます。 共創コーチングの稲垣友仁です。
7月18日(土)国際コーチング連盟(ICF)ジャパン主催のカンファレンス「ICF Coaching Frontier 2026」にて、マスターコーチの陽子と共に登壇してきました。

私たちが今回の講演、そしてこのメルマガを通じて皆さまに最初にお伝えしたいキーワード。それは「共創」と「自分の弱さをさらけ出す(Vulnerability:ヴァルネラビリティ)」です。
私たちが夫婦でコーチングの道に深く魅了され、苦楽を共にしながら25年以上の歳月をかけてたどり着いた結論が、この「共創」という概念に詰まっています。本日は、ICFで話した内容の概要とエッセンスをお届けします。
まずはコーチングという手法が歴史的にどのように進化してきたのかを振り返ってみましょう。
【第1世代】目標達成・問題解決志向の時代 「コーチ(専門家)」と「クライアント」という役割が明確に分かれており、クライアント個人の目標達成に焦点を当てるスタイルです。
【第2世代】システミックな組織開発の時代 問題そのものではなく解決策や内なるリソースに焦点を当てます。コーチは中立的な進行役を務め、クライアント自身を「その問題の専門家」として尊重します。
【第3世代】共創型パートナーシップの時代 そして現代、社会の劇的な変化に伴い、コーチングは第3世代へと突入しました。 ここでは、コーチは「共に歩む人」となります。「する・される」という従来の上下関係や主客の分離を乗り越え、互いの大いなる目標や大義に向けて対等に関わり合う関係です。単なる目標達成にとどまらず、深い対話と問いによって内省を深め、共に新しい価値を再構築していくこと(協働省察)を重視します。
いろいろな場面でパートナーシップという言葉は使われていますが、看護の世界では下記のように定義づけられています。
「パートナーシップとは、対等な信頼関係を基盤とし、合意形成と相互協力の過程を共有するものである」
まさにコーチングの世界でも、ICFのコア・コンピテンシーが「コーチはクライアントのパートナーであれ(Coach partners with the client)」と告げているように、相手を変えようとするのではなく、対等な立場は、お互いの価値を「掛け算」して新たな未来を生み出すあり方が求められているのです。
では、私たちが社名にも掲げ、宇都宮大学大学院での授業(今年で19年目を迎えます!)でも伝え続けている「共創」とは、一体どういう意味なのでしょうか?
「みんなで仲良く協力することでしょう?」と思われるかもしれません。しかし、それは違います。「仲良しこよし」で同質化し、お互いに「分かったつもり」になることは、共創ではありません。
共創学会の初代会長である三輪敬之教授は、「共創とは、異質なもの同士が共に創造すること」であり、「自他非分離(自分と他人の境界を明確に区別せず、相互に深くつながり合っているという東洋的な世界観)」の表現であると説いています。
また、武道家でフランス文学者の内田樹氏の言葉を借りれば、「他者を同一化したり包摂したりするのではなく、他者の他者性、その異邦人性を温存したまま共生を可能にする働き」です。
自分は青だと思っているけれど、相手は赤だと思っている。そんな異質な者同士が本気で大義に向かって組み合えば、そこには必ず「違和感」「摩擦」「拒絶」が生まれます。
私たち人間は、摩擦や違和感を「怖いもの」として避け、なかったことにしてスマートに繋がろうとしがちです。
しかし、実はその「あれ?なんか違うぞ」という言葉にならない違和感や摩擦が火花を散らす箇所にこそ、今までこの世に存在しなかったイノベーションや変革、そして新しい価値(「創」の部分)が生まれる最大のポイントが隠されているのです。
要するに第3世代のコーチングは、共創型パートナーシップであり、それが共創コーチングだと私たちは思っています。
では、図として見ていきましょう。
下図にあるように、現在日本で行われている「一般的なコーチング」を見ると、多くはスキルやフレームワークを駆使して答えを「引き出す」ことに重きを置いているものが多いと感じます。
理路整然とスマートに進むため、クライアントは安らぎを感じ、「話してすっきりした、満足した」という状態になります(これも良い・悪いの話ではなく、一つの優れた効果です)。

それに対して、第3世代にも近い、「共創型パートナーシップのコーチング」は、一言で言えば「どろくさい」ものです。 コーチはスマートな進行や「こう導きたい」という自分の正しさ・執着を手放します。そして、対話の瞬間に感じた小さな違和感に立ち止まり、感情が動いた場所から目を背けずに探求し、訪れる「怖い沈黙の間」を質問で埋めることなくクライアントと共に味わい尽くします。
「答えは相手の中にある」だけではなく、二人の間でふと立ち上がってしまう創造の空間、つまり「場に答えが宿る」という状態を信じるのです。
このようなコーチとクライアントが創り出す(生み出す)「共創の場」からクライアントが手にするもの。
それは、単なる安心感ではなく、「腹の底から湧き上がる勇気」です。
自分の才能や価値が確かなよりどころとなり、
「怖いけれどワクワクする」
「もう動き出したくてたまらない」
という圧倒的な学習と成長のエネルギーが生まれます。
では、そんな摩擦や違和感を恐れず、どろくさい共創の「場」を作り出すために、リーダーやコーチに最も求められる力はなんでしょうか?
それこそが、今回の大きなテーマである「Vulnerability(ヴァルネラビリティ=自分の弱さや傷つく可能性をさらけ出す勇気)」です。
ブレネー・ブラウン氏は、
「ヴァルネラビリティとは、自分の弱さやもろい部分を認め、傷つく可能性と向き合おうとする態度であり、不確実性、リスク、生身をさらすことだ」
と定義しています。
また、ハーバード大学のキーガン教授らは、「組織に属する大半の人が『自分の弱さを隠す』という本業以外のもう一つの仕事に多大なエネルギーを費やしており、組織は目に見えない巨大なコストを負担している」と指摘しています。
鎧をまとって完璧なリーダーを演じることには、限界があるのです。
私が南山大学大学院の修士課程で行った「教師のヴァルネラビリティ」に関する量的・質的研究でも、非常に興味深い事実が実証されました。
成長マインドセット・心理的安全性・信頼との強い相関
自分の弱さを受容し、勇気を持って自己表現できる人ほど、「人は努力で変われる」という成長マインドセットが高く、周囲との間に深い信頼と心理的安全性を築いていることが分かりました。
「弱さ」は伝染し、相互に学ぶ場を創る
リーダー(教師)が自らの不完全さを認め、対等なひとりの人間として壁を作らずにさらけ出すと、それを見たメンバー(生徒)も自身の弱さや率直な意見を出せるようになります。
つまり、リーダーが自分の生身をさらすことは、単なる自己満足の自己開示ではなく、「組織の強い信頼関係と、失敗を恐れない学習・成長を加速させる強力な実践モデル」として機能するのです。それが集団に伝染し、その集団が、学習・成長する組織となっていきます。
ICFのコア・コンピテンシーでも、「コーチはクライアントとの信頼を築くために、自分の不完全さも見せるなどして、開放性と透明性を示している」と明確に定められています。 自分がどれだけ不安で心配であったとしても、今ここに湧いている真実や違和感を、勇気を持って場に差し出すこと。
その自分の生身を掛け算していくことで初めて、チームの中に安心と成長の循環が生まれ、イノベーションへの扉が開かれます。
小学5年生の国語の教科書にも載っている、岡田美智男先生の「弱いロボット」のお話をご存知でしょうか? あえて一人で完璧にゴミを拾えない不完全な「弱いロボット」を作ると、周りの人間が思わず手助けをしてしまい、結果として場に温かいコミュニケーションと協力が生まれるという研究です。人間も同じで、根源的に不完結で不完全だからこそ、相手を信じて半ば委ね、支え合うことでしなやかな力を発揮できます。ですのでリーダーは得に、「完璧な指導者」「スマートで失敗しない管理者」という鎧を着ないということが大切だと思います。
自分の弱さを認め、相手の異質さを尊重し、そこで生まれる摩擦の火花を恐れずに共にいること。それが、これからの時代を動かすコミュニケーションの第一歩になると思っています。
共創コーチング 稲垣友仁
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