教育担当の稲垣友仁です。
今日は、最近注目されている非認知能力について、身に着ける方法論の書籍が出ましたのでそこからのメルマガになります。
「やり抜く力」「好奇心」「自制心」など、人生の成功を左右する力とされる「非認知能力*」は、日本で2015年に出版された「学力の経済学」から注目が集まりました。
非認知能力は数値化できて、トレーニングによって上げることが、子どもだけでなく、大人もできるという話でしたが、どうしたら上げられるのかについては言及されておらず、現在、みな試行錯誤している状態です。
そのような中、待望の「非認知能力を高める方法」の本(下記)が出版されました。
『Helping Children Succeed私たちは子どもに何ができるのか〜非認知能力を育み、格差に挑む〜』
著者:ポール・タフ 訳:高山真由美 2017/9/19 英治出版
ここに書かれていたポイントをまとめると、
・『非認知能力は、読み書き計算のように教えて身につくものではない。「環境」の産物なのだ。』
・『生徒のグリットや粘り強さに直接働きかけることが、成績向上の効果的な手段になるというエビデンスはほとんどない。・・・学校や教室の状況がポジティブなものの見方や効果的な学習を助長すれば、全ての生徒が粘り強さを見せるようになる』
・『「教科の指導法」ではなく、「落ち着いた雰囲気の作り方」の訓練を受けた先生のクラスでは、生徒の成績が劇的に伸びる。』
とういう部分が、この本の本質質的な部分かと思いました。
要するに、集団の学習する環境・雰囲気が非認知能力・成績を上げるポイントになると著者は伝えています。
そして、この本の中で、「日本の算数・数学教育に学べ*(2002年)」というアメリカ人の数学の研究者たちが出した本が紹介されていました。要するに日本の授業方法は、非認知能力を上げるために効果的な授業をしているということなのです。
その一部を紹介します
『日本では、新しい数学の項目を教えるとき(例えば、3/5+1/2)のような分母の違う分数の足し算を教えるとき)生徒が見たこともない問題を提示し、自分で解いてみるようにいう。生徒たちはしばらくのあいだ問題を眺め、頭を書いたり、ときには苦しそうに顔をしかめながら答えを出す。その答えはたいてい間違っている。
次に行うのは、小グループ、またはクラス全体での話し合いだ。ここで生徒たちは回答を比べ合い、論議をしながら異なったアプローチをひねり出す。教師は、最後には数学の新しい要素を導入できる方向へと議論を誘導する・・・・授業が終わることには戸惑いも苛立ちも、新しい事柄を深く理解できたとい満足にとってかわられる。博識な大人から丸ごと教わったのではなく、生徒同士の対話を通じて一から組み立てたのだから。これに比べてアメリカの授業は・・・。』
と続いていきます。
上記の光景は、日本にいる小・中学校の教師は当たり前に目指していることです。
ただ、上記のような授業は大変難しく、相当にスキルが高くないと授業が成立できません。
生徒達は学力差があり、話し合いについていけない生徒もいますし、塾ですでに習っている子供への動機付けも行わなければいけません。
あと一番のポイントが、教師に議論をうまく誘導するスキルがあるかどうかです。私が思うに上記のような授業をうまく成立させていいる教師はそんなに多くないと思います。形としてはなっているけど、
子どもたちの本当の好奇心が動くような授業になっているかどうかは疑問です。
そして、そのような授業を成立させるためにはとても緻密な準備も必要ですし、子どもたちにいろいろなスキルを丁寧に教えていく必要があります。
しかし、そのような難関を乗り越えて、ポイントをつかんでいる教師のクラスは、子どもたちは生き生きと輝いていて、のびのびと授業を受けています。
そういうクラスは学力も自然と高くなっていきます。何よりもすごいのは、そのクラスを巣立った後に彼らは生きる力を発揮します。
そのようなクラスで過ごした子どもたちは、巣立った後、他の子どもたちを巻き込んで、より良い雰囲気を作ってくれていきます。
まさにそのベースになっているのが非認知能力だったのか、と今更ながらに思います。
何度か紹介している動画ですが、まさに非認知能力が育つクラスの雰囲気はこんな感じだと思います。
このようなクラスにするためには、教師がずっと話していてはできません。子どもたち自身が主役になって、授業を作り上げているという感覚を持たせることがとても大切です。
そのような中で自律性が刺激され、自分もできるという有能感が育ち、チェレンジできる人と人との関係性の中で育った子どもたちは、本当の意味での生きる力(非認知能力)が育っていくのです。
何か一手で非認知能力は育つのではなく、いくつかのポイントが絡み合って育っていくのだと思います。
私が考える、非認知能力が育てるポイントは以下の6つです
組織風土
・失敗しても笑われない安心感と、失敗から学ぼうとする風土
・結果や成果を目指しながらも、プロセスである成長や育成を重視する風土
・何に向かって力を入れればいいのか組織としての明確な目標
個人の力
・自分も参加しているんだという参加意識
・自分もできるんだと思える有能感
・自分自身で決めて、やり切ってつかんだ成功体験
これをやれば確実に非認知能力が上がるというトレーニング的なものを期待していたので残念でしたが、私達人間は改めて、人との間に育っていくポイントがあるのだなあと思いました。
参考文献:
『Helping Children Succeed私たちは子どもに何ができるのか〜非認知能力を育み、格差に挑む〜*』
著者:ポール・タフ 訳:高山真由美 2017/9/19 英治出版
『日本の算数・数学教育に学べ―米国が注目するjugyou-kenkyuu*』
ジェームズ・W-スティグラー他
『非認知能力とは*』 nhkエデュケーショナル