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メルマガ「共創コーチング®」稲垣 友仁

【共創コーチング®︎コラム】トロント大学での大規模コーチング調査

1、宇都宮大学『共創コーチング特論』16年目突入 受講生80名を超える

おはようございます。稲垣友仁です。

今年も2月13日(火)〜15日(木)に宇都宮大学工学部にて
『共創コーチング特論』の授業を行なってきました。

宇都宮大学工学部では、共創人材の育成ということで、
2008年からこの授業が開講されています。

今年は、1年生から3年生まで86名もの学生さんが参加していただきました。
毎年増え続けています。

下記は3日間の集中講義最終日にいただいた、学生さんからの感想です。

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普段は関わらないような人達と話すことは、新しい視点の発見になった。
さらに、今までの対人関係におけるずれはどうして起こっていたのか理解できた。
具体的には自分の反応方法と他の人の反応方法は違うことに気がついた。

また、同じ悩みを分かち合うことは、自分への嫌悪感を軽くした。
年代は同じなのに、考え方や悩みも人それぞれで、
人と交流することがこんなに興味深いことだと思わなかった。

上手く行かなかったら考え方を変えて、それを踏まえてアプローチを改良し、
自分の知見も発展させることができると考えた。
以上のことを知っているだけで今後の人との関わり方が大きく変わるし、
より多くの人を受け入れられるようになると思った。

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2、大学教育におけるコーチング授業の効果

この授業を開講して16年経ちましたが、
このようなコーチングを授業として受けることでどのような効果があるのでしょうか。

最近、私たちの共創コーチ養成スクールのプログラムにもゲスト出演していただいた、
環太平洋大学 キャリアセンター長兼経済経営学部特任教授 佐藤典子さんの最新の研究によると、

『大学教育におけるコーチング授業とコーチの効力感について、その関係性を探る』
Sato, Noriko.2023. “Exploring the relationship between the training of coaches and coach efficacy among undergraduate students ”

学生は、コーチングの授業を学ぶことによって、
以下のような効果があることがわかったそうです。

1)コーチングの授業を受けた学生群とそうでない学生群の間では、
対人関係スキルや学ぶことへのモチベーションなどに有意な差が表れた。

2)コーチングの授業を受けた学生群と
プロコーチからコーチングをしてもらった学生群との間には、
対人スキルなどに有意な差が表れなかった。

これは、コーチングの授業を受けた学生群とクライアント経験グループを比較して、
対人関係スキルを上げるニーズがある場合には、
コーチを雇うのと同様な効果をコーチングの授業が上げることも示唆された。

ということです。

コーチング授業と1on1コーチングが同様な効果を上げるということですが、
大学生の1on1にはどのような効果があるのでしょうか?

3、大学における学生向け個別(1on1)コーチングの効果(進級・卒業)

2011年にアメリカで発表された
「大学における学生コーチングの効果」という研究があります。

こちらは授業での効果ではなく、
大学生に個別(1on1)コーチングを行なって成果が出たというものです。

この研究では、大学生の学業的成功と卒業率を向上させるために、
学生に対するコーチングの効果を検証しました。

結果として、コーチングを受けた学生は、受けていない学生に比べて、
コーチング期間中だけでなく、コーチング終了後も
大学に在籍し続ける可能性が高くなりました。

コーチングは、学生の進級と卒業を促進する効果的かつ
費用対効果の高い手段であることが示されています。

『大学における学生コーチングの効果 学生指導における無作為化実験の評価』
Bettinger, Eric, and Rachel Baker. 2014. “The Effects of Student Coaching in College: An Evaluation of a Randomized Experiment in Student Mentoring.”

4、大学における学生向け個別(1on1)コーチングの効果(学業成績)

先ほどの研究では、大学生に個別(1on1)コーチングを行なうことで
効果があることがわかりましたが、
大学生全員にコーチをつけるというのは、大変な費用が必要で、
もう少し費用を落とした形でコーチングの効果が得られる方法はないのか?
という疑問に答えるトロント大学の有名なコーチングの大規模調査につながっていきます。

4000人以上の学生を対象に、
1年間、簡単なテキストメッセージでコーチングをするグループと
個別(1on1)のコーチングを受講するグループに
ランダムに割り当て、どのような効果がでるかを実験しました。

結果、テキストメッセージでのコーチング介入からは効果がなく、
逆に人が行う個別(1on1)コーチングプログラムからは
学業成績に大きな効果があることを発見しました。

1年間の個別(1on1)コーチング・サービスによって、
授業の平均成績が約5 %ポイント上昇し、
評定平均値(GPA)が標準偏差で0.35上昇するという
大きなプラスの効果が認められました。

個人(1on1)コーチングの利点は、低コストの技術を使用した介入では
簡単には再現できないことが示されました。
テキストメッセージでは、コーチ のように
各問題を「深く掘り下げる」ことができなかったのです。

この研究は、個別(1on1)コーチングと技術を用いた介入の効果を比較し、
個別(1on1)コーチングが学生の成績に
大きな改善をもたらすことを発見した重要な研究です。

『学生コーチング: テクノロジーはどこまで可能か?』
Oreopoulos, Philip, and Uros Petronijevic. 2016. “Student Coaching: How Far Can Technology Go?”

この2つの研究でわかったことが、
大学生の進級・卒業率と学業成果に
1on1コーチングが効果があるということです。

5、まとめ(コーチング型授業の開発へ)

大学教育において、
・コーチング授業では、対人関係スキルやモチベーションの向上。
・個別(1on1)コーチングでは、大学進級率・卒業率、学業成績の向上。
が認められました。

また、授業の研究で個別(1on1)コーチングと
コーチング授業が同様な効果を上げるという結果
(*対人関係スキルを上げるニーズがある場合)は、
それらを応用して、コーチング授業(コーチングを学ぶ授業)を
コーチング型の授業(コーチングを受けるような形の授業)に進化させることができれば、
継続的にコーチング型の授業を受講することで、
学業成績向上の可能性もでてくるかもしれません・・・。仮説ですが。
うまくいけば、1on1を行うよりも費用対効果も高くなります。

個別(1on1)コーチングで行われている要素を分解し、
コーチング型の授業へと発展する未来。
ちょっと夢見ています。

稲垣友仁

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