おはようございます。稲垣陽子です。
雑誌クーリエジャポンに「人の感情と表情は一致していない」というタイトルで、ノースイースタン大学の心理学者であるリサ・フェルドマン・バレット博士の研究が掲載されていました。
それによると、都市部に暮らす成人を対象とした研究で怒っているときにしかめ面をしているのは被験者の30%。その他70%の人は怒っている時に別の表情をしていることがわかったそうです。
つまり一般的に考えられている、人は怒っているときにはしかめ面をし、悲しい時には弱々しい表情になるだろうという考えは一概にそうだと言い切ることはできないということです。
確かに、自分自身を振り返ると当てはまるところがあります。
悲しいのに笑って話したり、腹が立っているのに、ポーカーフェイスで黙ってしまったりすることが私にはあります。
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実際にコーチをしていても、特に男性のリーダーによくあることですが、急に黙りだしたので、どうしたのかな、と思ったらうわっと泣き出した人がいました。顔だけ見ていたら、直前までその方にそんな悲しみがあったとは思いもよりませんでした。
またとても深刻でつらい話をしている時に、突然笑い出したリーダーもいました。「楽しい」という話とはとても縁遠い内容だったにもかかわらず。
つまり、この研究のように、顔の表情が常にその人の感情を表しているとは限らないということです。
悲しい顔をしているから人は悲しんでいるとは限らないというのがこの結果からわかります。
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最近は、ズームなどのオンライン会議で相手の顔だけを見て話す機会が多くなってきました。
その分、顔の表情や話している内容に集中することができるようになったと感じています。
ただ、それだけでは、本当に相手が思っていることや、真の感情をキャッチできるとは言えません。
上記のリサ・フェルドマン・バレット博士はTEDの中でこのように話していました。
「他人の感情なんか読み取ることはできない」
「感情は推論である」
「感情は生まれつきではなく、構築されるもの」
「これは何かではなく、私の過去の経験のうちで何に一番似ているか?」
そして、
「皆さんが読み取ったように思う他者の感情は実際のところ その一部はあなたの頭の中身に由来するということです」
と話しています。
つまり、相手が悲しいのか楽しいのか、相手の感情を真にキャッチしようと思ったら、まずは自分自身が森羅万象様々な感情が表出される場面に遭遇し、観察して、味わうことが大切なのではと思います。
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ダイバーシティ、多様性と言った言葉に表現されるように、他者は自分とは違うということが尊重され、認知される時代になってきました。
それはコミュニケーションでも同じことが言えます。自分は嬉しい時に微笑むからと言ってみんながそうとは限らないのです。
博士は
「身体の動き自体には感情に関わる意味が全くありません。それらの意味は自分で見い出さねばなりません。人間もその他の生き物もそれらを文脈と結び付けねばならず意味はそうして見い出されるのです。そのようにして私達は知るのです。微笑みが悲しみを意味したり泣き叫ぶ様子が幸せを意味したりストイックで静止した顔が敵を葬り去ろうという怒りに満ちた企みを意味する可能性を」
とも言っています。
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その人の言動にどういう意味を見出すのか。
そのためにはよくよく話を聞き、そして様々な感情の表出場面に遭遇し、観察して自分自身の経験値を高めていくことがコーチはもちろん、人と深く繋がることを望んでいる人に、大切なことだろうと思います。
では、今週もどうぞ素敵な1週間を!
[参考文献]
TED講演
「あなたは感情に流されている訳じゃない感情は脳で作られる」
https://mshn.jp/r/?id=11pr32462&sid=4758
研究論文
「Emotional Expressions Reconsidered:Challenges to Inferring Emotion FromHuman Facial Movements」
https://mshn.jp/r/?id=11pr42462&sid=4758
クーリエジャポン掲載記事
https://mshn.jp/r/?id=11pr52462&sid=4758
エコノミスト掲載記事
https://mshn.jp/r/?id=11pr62462&sid=4758
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