おはようございます。稲垣友仁です。
以前、地方のコーチングプロジェクトを担当したことがありました。
僕の役割は、役所のマネージャークラスの方のコーチングをすること。研修や一対一の面談を経て、グループ全体の風土改革を狙います。
その中に、こんな方がいました。
「私の部署では、仕事をきちんとやる人とやらない人が決まってしまっているんですよね。チーム内で凄く差があります」
悩みを吐露してくださったのは50代の男性。税を扱う部署の課長さんで、当時20人程のチームマネジメントを行っていました。
「結果に差が出ている、ということでしょうか?」
「ええ、滞納された税金の回収率が悪く。一部の人間がどれだけ頑張っても、動かないメンバーの割合が多いと、チーム全体の成績は落ちます」
聞くところによると、回収率は90%を切る数字だそうです。課長さんは何とか90%以上に上げたいと考えていました。
優秀な人材がいる一方で、必要最低限の仕事しかやらない無気力気味な人もいる。偏りがある故、結果を出す人は理不尽に感じ、結果を出せない人は存在意義を見出せず、成長意欲が失せてしまう。
チームを導くリーダーとして、この状況はなんとか突破したいところでしょう。
話を聞きながら、どうしたものかと考えていたんですが、その時ある法則のことを思い出しました。
「働きアリの法則」という言葉をご存知でしょうか。
これは、北海道大学の進化生物学者・長谷川英祐氏が発見したアリの生態です。「働きアリのコロニーのうち、ほとんど働かないアリが8割を占めている」というものです。
詳しくは長谷川氏の『働かないアリに意義がある』(メディアファクトリー新書)という著書をご覧いただきたいのですが、僕はここに書かれている生物の力学に、チームマネジメントのヒントがあるのではないかと考えました。
この本に書かれていることは、こうです。
働きアリをよくよく観察してみると、食料の大半を調達してくるのは全体の2割。普通に働き、時々サボっているアリが6割、ずっとサボっているアリが2割ということが分かりました。
今度は全固体が常に働き続けるように「働くアリ」2割だけを残し、それ以外を排除しても、また「働く2割」と「働かない8割」に分かれてしまう。
しかし、他の動物に攻撃されるなど、コロニー全体が緊急事態に陥ると、サボっていた8割が全力で動き出し、集団のピンチを救ったのです。そして沈静化すると、また元のバランスに戻ったのだそうです。
これが、「働きアリの法則」というものです。
つまり、サボっていたアリは緊急時に備えて余力を残していたのです。
全員が全力で働くのではなく、働かないアリがいるからこそ、集団は存続していける。
僕は、この法則はアリに限らず、同じ生物である人間にも当てはまるのではないかと考えています。
まさに、僕が担当した役所の税務課で起きている問題も、この力学によるものだろうと思い当たりました。というか、この問題はどの組織でもある問題です。
とはいえ「本能なので仕方ありませんね」では、問題解決になりません。
では、どうしたら良いのか?
僕は、課長にある提案をしました。
「その人が、主体的な2割に入れるようなテーマを与えてみてください」
「テーマを与える?」
「今の状況だと、常に評価されるメンバーが、成績の良い2割に固定されてしまうでしょう。ならば、チームメンバーそれぞれが2割に入れるような評価軸を用意すれば良いのです」
このアイデアは、僕が中学校の体育教師をしていた時に他の教師から学んだやり方でした。
学校では、「勉強が出来るかできないか」という括りでは、最終的に階層は決まってしまいます。なんとなく上下関係が出来てしまう。そこで、全員を主体的にするのが上手な先生は、褒める視点を変えていました。
例えば教科ごとに変えたり、部活動ではこの子がいい、友達をサポートできる、ゲームをやらせたらなど、色々な切り口を持ってきて、本人が2割に入れるものを学級に入れ込むのです。
自信がある分野に関してなら、生徒は張り切ります。一度、2割に入った経験があるとモチベーションも上がるし、主体性が高まりやすくなるのです。
仕事でも同じです。「結果を出しているか否か」という評価軸だけで判断するのではなく、たとえば、他のメンバーのフォローをしたとか、事務処理が速いとか、顧客対応が丁寧であるとか、各個人が活躍できるテーマを与えてあげれば良いのです。
人を動かすリーダーは、メンバーの強みを見出し、チームに貢献できる機会を与えるのが抜群に上手いのです。
課長は、早速行動に移しました。
朝礼のルーティンを取り入れ、リーダーである彼が一人一人の良いところを褒めるようにしました。毎朝発表しなければならないので、彼自身もメンバーを観察する癖が出来たそうです。話をよく聞き、コミュニケーションを取るようにもなりました。
すると、徐々にチーム全体が活性化していき、お互いがお互いを承認する空気が醸成されていったそうです。
「回収率が95%までに伸びました!」
6ヶ月後、彼は嬉しそうに報告してくれました。
組織においては、どうしても明確な成果を出す人に光が当たりがちです。
けれども、成果が出るまでには様々なプロセスがあり、そのプロセスにおいて貢献した人がいます。チームを引っ張っていくリーダーは、目に見える成果にばかり囚われてはなりません。
今活躍できていない人も、何かのテーマで2割に入れれば結果も出しやすくなり、自信を持ち、後は放っておいても主体的に仕事に取り組むという良いスパイラルに入ります。そんな人が多い集団は活性化し、チーム全体のパフォーマンスも上がります。
僕たちは、どうしても主体的になれない8割の部分に意識がいき、イライラしてしまいがちです。けれども、視点を変えさえすれば、周りをサポートする強い戦力になってくれるかもしれません。
駅伝で有名な青山学院の原監督は、駅伝で走る選手じゃない選手たちの話を徹底的に効いてサポートするということを聞いたことがあります。
にわかファンが増えたラグビーワールドカップで、日本の選手達は、試合と試合のあいた日に、レギュラーメンバーが控えのメンバーを連れてごちそうをしにいくそうです。
そこで、控えのメンバーがいろいろな仕事をすることで、どれだけレギュラーは助かっているかを訥々とレギュラーメンバーが語るそうです。そして、これはチームの伝統になっていると聞きました。
強いチームは補欠の選手達へのリスペクトも忘れないのです。これは単なる感謝だけに終わるのではなく、チームを強くするという意味でも重要なことが分かると思います。
チームを率いているリーダーで、考えて動けない部下が多いと思った方は、
「主体的になっていない人が、トップ2割に入れるテーマは何か?」
ぜひ今週は、この点にフォーカスしながら過ごしてみてください!
参考文献:
「働かないアリに意義がある」
長谷川英祐 メディアファクトリー新書
⇒ http://mshn.jp/r/?id=0xk4i2462&sid=4758
※上記のコラムは、当社発行メルマガに掲載されたバックナンバーです。下記のバナーから登録いただけば、毎週月曜日朝8時に、このようなコラムが届きます。意識をもって一週間を始めることができます。