おはようございます、稲垣友仁です。
新緑が美しく、すがすがしい季節となりましたが、いかがお過ごしでしょうか?
最近、AI時代の到来で、人間はどうしたらいいのか?
という討論が、テレビなどで激しく行われています。
そのような中、「学力の経済学」の著者である中室牧子さんが、まさにAI時代に教育がどのようになっていくかを語っている記事があり、その中でも特にコーチングの有効性を語っていたので、今日はそれを紹介します。
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「AI時代の教育論 非認知能力で変わる人間の力」中室牧子 より抜粋
・・・・前略・・・
AIのようなテクノロジーはいやが応にも教育を変えていくだろう。
一つのクラスに学力層の異なる生徒がいる場合、教員が全ての子供の習熟にあった指導をすることは難しい。多くの場合、一番層の厚い中間層を対象にした授業や指導を行うことになるだろうが、こうした指導が、特に学力が高い生徒や低い生徒にとって不利になることを示した研究は多い。
このような場合は、過去の学習履歴に基づいて、IT技術を活用して習熟度に合わせた問題を提示してくれる「アダプティブラーニング(適応学習)」のような方法は多くのメリットがある。おそらくこれからは、個々の生徒の習熟や個性に合わせた「テーラーメード型」の教育にシフトしていくものと思われる。
しかし、技術に多くのものを求めすぎることは望ましくない。近年、カナダのトロント大学で行われた大規模な実験に「コーチング」の効果を明らかにしたものがある。コーチングとは、スポーツの「コーチ」と同じ語源で、技術や学習の指導だけでなく、目標の設定やスケジュー管理、モチベーションを維持するような声かけなどをする。
研究では、大学生に1対1で人がコーチングを行うグループと、人間がコーチングを行うのと同じ頻度でテキストメッセージがメールで送られるグループをランダムに振り分け、その後の成績を比較した。結果は、1対1でコーチングを行ったグループの方が、期末試験の偏差値が0・3高かったことが報告されている。
また、トロントの公営住宅で経済的に困窮している低学力の中学3年生を対象に行われた実験では、1対1のコーチングが行われたことによって、高校卒業率と大学などへの進学率が飛躍的に上昇したことが示されている。特に学力が低い層への手厚い、きめ細やかな対人のコーチングは、大きな効果が認められる可能性が高い。
テキストメッセージではだめで、人がコーチングをしなければうまくいかなかった理由は何なのだろうか。この論文では、「先回りした」行動が取れないことを一つの理由に挙げている。
人間が対面でコミュニケーションを取ると、ほんの少しの表情や声のトーンでも相手の心情の変化に気づくことがある。こうした「気づき」は、先回りしたサポートやフォローにつながる。
これはやはり人間のなせる業というものだろう。
AIに何ができて、何ができないのか。これを知ることは、裏返してみれば、人間に何ができて、何ができないのかを考える機会になる。
教育において、人による指導と技術の活用のベストミックスについての知見を蓄積することが求められている。
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海外の人材育成ではアダプティブラーニングが主流になり始めていると聞きます。
AIを使って簡単なテストをすると、その人の傾向がわかり、それに合わせた形でAIがトレーニング方法を提示してきます。
提示されたからと言って、全ての人がそれをやりきるとは限りません。
やっぱり人の存在がないとやらない。
ある程度の部分はテクノロジーが行いますが、最後の微妙な人間の心の動きや感情のケア、きめ細やかな配慮、動機付けなどは、AIよりも人間の方が優れて行える部分ですので、相手の状態に合わせた形でそれを行なっていく。それがコーチングの部分ですよね。
まさに、AIは、教えることや相手の能力を判断することを行い、人間は、学習定着率を高めていくために、その人に合わせた個別対応の形でモチベーションを支援するコーチングの部分を担う。
そんな教育の未来はすぐそこに来ています。
※参考文献
週刊エコノミストオンライン
「AI時代の教育論 非認知能力で変わる人間の力」中室牧子
http://mshn.jp/r/?id=0xth22462&sid=4758
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