おはようございます。稲垣陽子です。
今日は思い出話を。
私の母はかつて「満州」と呼ばれた中国東北部の長春で生まれました。
戦争中、祖父母は長春に住んでいたからです。
戦後、引き揚げてそれっきりでしたが、私が21歳の時、当時住んでいた長春の家を探しに、親戚一同で旅行に行くことになりました。
昔の地図を見ながら、終戦当時11歳だった長兄の叔父の記憶を頼りに、ようやく家がみつかります。
そこには一人の上品なおばあさんが住んでいました。
おばあさんは私たちを家の中に通してくれ、言葉が通じない私たちを歓待してくれました。
そしてお別れの時です。
おばあさんが何かを思い出すようにふと黙りました。
それからゆっくりと日本語で「また会いましょう」と言ったのです。
それは、戦争中に日本語を学んだおばあさんが一生懸命思い出して発した言葉でしたが、私はその言葉に衝撃を受けたのです。
当時の私は「戦争が原因で中国人は日本人を嫌っているだろう」と思っていたからです。
偶然の出会いはあったけれど「また会いたい」とは思わないのではないか、と思っていました。
だから「また会いたい」と言う言葉に救われたような気になりましたし、それまでぶつ切りでしか人とつながってこなかった私にとって、人とのつながりを信じられる言葉でもありました。
その言葉に押されるように、私は大学を卒業して上海に渡り、中国語を学んで現地で就職をしました。
おばあさんの一言は、私の人生を広げてくれた一言となりました。
このように、誰かの行動の後押しをしたり、自己肯定感を高めてモチベーションを上げるような関わりを「エンパワーメント」と言います。
一つの言動が相手に力を与え、行動や創造性が高まることが期待されます。
しかし、これは狙って言えるものではありません。
どの言葉がその人にとってエンパワーメントになるかはタイミングもあるでしょうし、相手によっても変わります。
実際に相手を勇気づけよう、励まそうと思って伝えてみたけれど、うまく伝わらなかったという体験は誰もが一度はあるのではないでしょうか。
私自身も、ずっとそうです。
小学校の時の卒業文集の企画で、クラス全員のNO.1を投票で決めるというのがありました。
そこで、私「おせじNo.1」になったんです。
おそらく、相手を励ましたいと思って、色々言うけれど、どれも外していたんでしょうね(笑)
それくらいエンパワーメントができることは難しい。
でもそれ以来、どうしたら人をエンパワーメントできるか、考えるようになりました。
私なりにポイントは以下の5つです。
・心から思ったことだけを伝える
・利他でいう(自分のためにとか相手を操作しようとしない)
・言い過ぎない。一言に込める
・見返りを求めない(言って喜ばれたり、すぐに変わることを期待しない)
・言うタイミングは何度でもやってくる(無理して言わなくても本当に必要ならチャンスは繰り返しやってくる)
中国のおばあさんは、まさかその一言が私のエンパワーメントになったとは思ってもないことでしょう。
心から思った伝えたいことを
一生懸命に相手を思いながら伝える、
それが何より大切なのだと改めて思いました。
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