おはようございます、稲垣陽子です。
数年前、息子が高校生だった頃のことです。
ある日、息子が通学で利用している電車に私も乗る機会がありました。
その日はちょうど息子の下校時間と重なっていたので、
「もしかしたら同じ電車に乗るかも」と少し期待していたところ、
案の定、息子が乗車する駅でホームに立っている姿を見かけました。
ホームにいた息子は、友達と笑顔で話しながら、とても楽しそうでした。
その表情は・・・家で見せるよりも弾けるように明るく、
生き生きしていて、どこか凛々しさすら感じました。
その瞬間、私は「声をかけてはいけない」と直感しました。
声をかけてしまうと、息子が作り上げたその世界を壊してしまうような気がしたのです。
私はその場で気づかれないようにそっと離れました。
とかく人は、自分とその人との関係性の中で現れるもの(=システム)だけでその人を捉えようとしがちです。
例えば、私は息子のことを「優しくて直感的、ちょっと毒舌な自由人」と見ています。
そして、息子を前にすると、私はどこか「三枚目でドジで陽気なお母さん」になります。
このような二人の立ち位置や振る舞いは、
私と息子の関係性の中で自然に形成された「システム」と言えます。
しかし、このシステムは二人の関係性に限定されたものであり、
別の人との関係性においてはまた違う「システム」が現れます。
たとえば、息子は友達の前では「調和なリーダー」であるかもしれませんし、
先生の前では「鋭い質問をする生徒」であるかもしれません。
システムとは、個人が周囲の環境や関係性の中で相互作用する仕組みそのものを指します。
つまり、私たちはいつでもどこでも、
他者や状況との間に見えないシステムを無数に構築しているのです。
しかし、私たちはしばしば「自分と相手との固定のシステム」にとらわれ、
自分が見ている姿がその人のすべてだと思い込んでしまいます。
「この人はこういう人だ」と自分と相手とのシステムにこだわり、
見えているもので決めつけてしまうことは、
その人の可能性を狭めることにもなりかねません。
人はもっと広く、多面的で、未知の可能性を秘めています。
では、どうすれば相手のもっと広い側面に気づけるのでしょうか?
一つに「相手の中にある、他の人との関係性(システム)」を想像してみることです。
例えば、その人があなたの上司であれば、顧客の前でどんな姿を見せているのか、
または家庭でどんな親であり、どんなパートナーなのか。
その人があなたの子どもであれば、友達や先生とどんな関係を築いているのか。
そうした「知らない姿」を想像してみましょう。
すると、その人の中にある新たな可能性や豊かさを感じられるかもしれません。
相手を感じることとは、
相手の中にある「見えないシステム」を感じることとも言えるでしょう。
人は誰しも広く、未知で、多様な存在です。
だからこそ、目の前の「今、見えている関係性(システム)」だけにとらわれず、
相手の中にある無数の関係性に想いをはせてみてください。
その営みの中に広がっているその人の無限の可能性が感じられることでしょう。
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