2019年1月29日は、名城大学薬学部教育開発センター主催の教員向け講演会でした。
講演の演題は、
『成績不振学生の学習意欲を向上させるための考え方について【生きる力(非認知能力)を引き出すコーチング】』
というものです。ちょっとドキッとする演題ですが・・・。
この講演会は、東京理科大学が出した有名な調査結果の確認から始めました。
『大学卒業時の成績は1年終了時の成績とほぼ一致し、入学試験の結果とは相関関係がみられない』
東京理科大学調査 毎日新聞2016年6月3日記事より
要するに、今までやってきた入試対策の勉強では大学では通用しない。入試でいい点をとっていたとしても大学でついていけるとは限らないということを示し、高校までの学びと大学での学びが繋がっていない可能性があることが分かります。
どの大学でも、必須の単位を落としてしまったり、卒業するまでに国家資格を取れないというような生徒が増え、単位を落として留年したり、退学せざる負えない状況に追い込まれる学生が増えてきているようです。
私が非常勤講師として関わっている宇都宮大学工学部でも、必須単位を落とす生徒が若干増えているとのことで、先生方が授業を工夫したりなど必死の努力をされていて、毎回行くたびに何人かの先生から相談を受けます。結構、全国の大学で同じような問題になっているようです。
大学入試を頑張った生徒も、せっかく入った大学で、それまでの方法ではうまく行かなくて悩んでいることでしょう。
今回の講演では、このような状況を解決するためには、どのように学生の基盤を捉え、どのような関わりをしていけばいいのか、コーチングと言うものを軸に、関わり方を紹介しました。
成績不振学生に対して関わるポイントは、下記の3つを、状況に応じてうまく使い分けていくことだと思います。
多くの成績不振学生がそうなる原因は心理面のバランスが崩れていることです。
勉強しないから積みあがっていかないのですが、だったら勉強すればいいのですが、できないのです。
勉強を一生懸命しているけど積み上がって行かない学生もいます。
一体、その学生の中で何が起こっているのか?そこに意識を向けることが大事だと思います。
僕に見えるのは、
集団が怖いと思っている学生、自分に自信がない学生、テストに向かうと頭が真っ白になる学生、常に何かが気になり感情に左右されている学生、ぼーっとして力が入らない学生など、状況はそれぞれで様々です。普段は皆と同じような顔をしていて分からないのですが、目には見えない心の部分で、病気にはなっていない程度に何かが起こっていると考えています。
これらを形に表すと、心理特性と言うところに行き着きます。
心理特性とは、今流行りの非認知能力に近いのですが、もう少し人間のベーシックな心理基盤的なもので、例えば下の図のような、受容感、効力感、セルフコントロール力、対人関係などが挙げられます。
成績不振学生は、心理特性で問題をもっていることが多いのではないかと推測しています。
実際に、私が関る宇都宮大学でも心理特性のテストを行って、そのデーター結果を活用しながら関わっています。
例えば、データー結果の「対人積極性」が不適応になっている生徒と面談をすると、生徒は緊張で手が震ます。そのような生徒には積極的に面談はせず、紙面上での関わりにスイッチするとうまく行ったりします。
また、受容感が不適応の生徒には、よく聞くこと、特に「おうむ返し」や「要約」を常に行うことで、受け入れられていると言う気持ちになれるように関わっていますし、このデーターはスタッフ全員で共有しています。
あくまでも一例ですが、その生徒の状況に合わせた関わり、不適応になっている部分をカバーしながら相手に自信を持ってもらう関わりを続けていくことが必要です。
上の階段図では、学力を挙げたいと思った時に、しっかりとした階段が出来上がっていないと、学力だけをトレーニングしても難しいことがわかります。成績不振学生は、この階段のどこかが不適応になっていることが多いのです。階段が出来上がると、学力もつきやすくなります。
ですので、その階段を一緒に作っていってあげる関わりが必要なのです。
その作業は、受容と共感をベースとした継続的な関わりの中で、本人の気づきを促すようなポジティブな関わりが必要です。まさに、それができるのがコーチングスキルなのです。
この心理特性検査は、図書文化社からでている、POEM(Prediction Of Emotional Maladjustment)というもので、講演ではそれを紹介しながら、同時にどういう関りを行っていくことができるのかについて話していきました。
上記のことからわかるように、成績不振学生のほとんどは、心理的な感情的な何かに生活が持って行かれている可能性が大きいです。
多分、自分で決めたりコントロールすることが困難になっているからか、家が極度に散らかっていたり、生活習慣が乱れていたり、約束を守れなかったりする様子をよく見ます。
ですので、こちらができればですが、規則正しい生活でリズムをつけ、環境を作ること、自分自身で小さい一歩でいいのでコントロール力を味合わせることが大切かと思います。
スポーツで強い伝統校は、よく合宿をしたり、寮から通わせたりしています。
生活習慣でリズムを得られると成果は出やすくなりますし、感情に持ってかれることを防ぐことができます。
なので、こういう生徒にテストの補習に来させたりする大学もありますが、そこで勉強をするよりも、心理特性を整理する勉強会を開いたり、習慣をサポートするような勉強をしたり、パーソナルコーチングやグループコーチングを行えると結果も少し変わっていくのではないかと思います。
成績不振学生は、自分自身の力で何かをやると言うことは困難です。言ってもできないので、教師をイラつかせつことになるのですが、こう言う生徒でも、うまく行かせている教師を何人か見てきました。
その教師が担任をすると、そのような生徒でも周りと同調しながら、宿題もきちんと持ってきたり、遅刻が減ったり、学力も少しづつ伸びるのです。
しかし、担任が変わると一気に崩れ、元に戻ってしまい、宿題は出さないばかりか、荒れてどうしようもなくなったと言う場面をたくさん見てきました。
うまくやっている教師は何をやっているかと言うと、成績が伸びない生徒に対して、個別に綿密に関ることもやっているのですが、もう一つは集団の力を使っていました。
集団の雰囲気をポジティブにして、その雰囲気に巻き込んで、その生徒に行動を起こさせていたのです。
私たちは、集団の雰囲気がポジティブに動くと、その中にいる個人は、触発されてその気になり行動が起こりやすくなります。
行動を起こし、その結果、成果が出ると本人に自信とやる気が湧いてきます。
私たち人間は、その集団の雰囲気がポジティブなマインドセットが起これば、自然と非認知能力を獲得して行くという研究結果があります。要するに、トレーニングして獲得するというものよりも、非認知能力や心理特性は、人間関係や集団の中で自然と獲得もしくは開いていくという存在のようです。
現代は、昔よりも人間関係を持たなくてもいい状況が多くなっているからか、そう言う力がつかずに大学へ行く学生が多くなっているのが現状ではないかと思います。
大学は、自立した一人として見ますので、ある意味、今までの小中高とは違い、綿密なサポートはありませんし、授業で関係性を持てる場面も少なくなります。
ですので、もう少し授業での関わりを小グループでいいので増やしていくことや、入学の段階でオリエンテーションで関係性作りを重視する仕掛けなど、とにかくコミュニケーションの機会を増やしていくことが、現代っ子に対しては必要な時代になっているのではないかと思います。
上記のような、3つのポイントを中心にお話しました。
私たちは目の前の成績に一喜一憂してしまいますが、その成績結果を影で操っているのは、心理特性や非認知能力なのです。
それらが整い、高まることで、その結果として成績が伸びるのだと言うからくりをお話ししました。
後は、実際のコーチングの流し方を紹介したり、具体的なスキルを紹介したりしました。
午後の一番眠い時間に、2時間ぶっ通しで、さらに演習もなしで行ったのですが、大変熱心に聞いていただきました。
講演が終わってからも、たくさん質問が出て30分ぐらい超過しましたが、皆さん真剣で、熱心で、すごくハートフルな先生方ばかりでした。
参加された先生方の中に、「講演会は、かなりの大好評で盛り上がったと、ぜひブログに書いてください」とおっしゃっていただける先生もいて、私も本当にやりがいがあったなあと感じる講演でした。
先生方が必死で、このような状況を食い止めようと懸命に授業改革などの努力を行っています。
1)学力の経済学 中室牧子 ディスカバー
共創コーチング®ブログ「成功に影響する非認知能力」
2)私たちは子どもに何ができるのか――非認知能力を育み、格差に挑む ポール・タフ 英治出版
共創コーチング®ブログ「非認知能力を育てる6つのポイント」