おはようございます。稲垣友仁です。
先週の月曜日(2025年6月16日)、ICFジャパン主催「コーチング・コンバージ2025」にて、
「コーチングと教育の可能性 ~ICFコアコンピテンシーと教育~」というテーマで、
オンライン講演を行いました。
当日は、60名程度の方が参加され、あっという間の1時間でした。
今日はせっかくですので、そのときに話した内容を、
簡単ですが、シェアしたいと思います。
僕は、28年前にコーチングと出会いました。
出会った瞬間にビビッときて、
「コーチングは人を本質から変化させる特別な力を持っている」
という確信を持ちました。
しかし、それと同時に、コーチングを学び始めた当初から
感じていたことがあります。
それは、「教育現場や企業現場で、コーチングをそのまま使って
成果がでるのだろうか?」という懐疑でした。
企業では、管理職のスキルとしてコーチングが求められていますが、
教育の現場でも、コーチングという言葉は広がってきたものの、
実際にはどこで、どのように使ったらいいのかが
まだ明確ではないように思います。
教育現場でも企業現場も1対1で長時間関わる場面がとても少ないので、
コーチングが1対1だけにしか使えないとしたら、
本当に成果がでるのか?と感じることは
当たり前のことかもしれません。
そんな中で、僕が出会ってきた、子どもの力をうまく引き出している先生たちは、
コーチングを「特別な技術」としてではなく、
日常の中で自然に体現しているように見えました。
つまり、1対1のセッションという枠に収まらない、
もっと大きな構造としてコーチングを“場”に作用させているということです。
この気づきを背景に、今回のICFジャパン主催「コーチング・コンバージ2025」では、
「コーチングと教育の可能性~ICFコアコンピテンシーと教育~」
というテーマでお話ししました。
ICFコア・コンピテンシーとは、世界最大のコーチング専門機関であるICF
(International Coaching Federation/国際コーチング連盟)が提唱している、
コーチングの効果的なセッションを提供するための
「行動指針」や「スキルの体系」です。
2021年に改訂された現在のコア・コンピテンシーは
以下の4つの領域・全8項目から構成されています。
このICFコアコンピテンシーを参考にして、コーチングというものを一つではなく、
大きく4つの要素から出来上がっているものだと考えて、
それぞれの要素を現場に散りばめていくことで成果を目指すという仕組みを、
自分なりに整理してきました。
このように考えていくとコーチングは、
1対1にとどまらない全体的な成果を目指すことができますし、
何より、現場で全体的な成果を出している人は、
このポイントを押さえているように思います。
下記に、ICFコアコンピテンシーの4要素と簡単な説明を書いておきます。
教師自身が「子どもには成長の可能性がある」と信じる“態度”が
コーチングの出発点です。子どもの自律性を育てようとする信念を
持っているかどうかがコーチングを機能させていくためのベースとなります。
心理的安全性やヴァルネラビリティ(弱さの開示)など、
コーチとクライアントとの関係を築くこと、
もしくは日本風にお伝えすると、コーチとクライアントが作り出す「場」を通じて、
教師と生徒の間に安心して学び合える空間をつくることが、学びや成長の質を高めます。
傾聴、共感、問いかけなど、コーチングの具体的なスキルが
「普段のコミュニケーション」に自然と取り入れられていることが、
子どもたちの内省と成長を支えています。
教育における本質的な関わりは、
子ども自身が「考える力」を育むよう支援することです。
経験を振り返り、意味づけ、行動につなげていく
――これはコーチングの“内省支援”とまさに一致します。
では、4つの要素を具体的にどのようにやっているのか、
学校現場での具体例を下記に挙げます。
ある先生は、毎朝「最近、自分が頑張ったことは?」
「誰かにありがとうと言いたいことは?」
という問いかけを全員に投げかけています。
これはコーチングの「内省支援」「承認」「自己表現の促進」に通じ、
教室全体にポジティブな雰囲気と自律性を醸成しています。
学級通信に、子どもたちの行動や発言から生まれた気づきを
「子どもの視点」で丁寧に綴る先生がいます。
これにより、子どもたちは「学びとは何か」「どう関わると互いに力が出るか」を
自然に学び、場に“リフレクション文化”が根づいていきます。
またこれにより学習に効果的なマインドセットの醸成され、
雰囲気がどんどん変わっていきます。
先生主導で決めるのではなく、「クラスとしてどうありたいか」を全員で話し合い、
合意形成のプロセスを大事にしている先生がいます。
これはまさにICFの「関係性をともに築く」「合意の確立と維持」。
場そのものが、対話と選択の場になり、
当事者意識(自律性)が高まっていきます。
ある先生は、自ら「間違えたってOK」「先生も失敗するよ」と日々伝え、
失敗や挑戦が自然に語られる場をつくっています。
これはICFでいう「心理的安全性」や「ヴァルネラビリティ(弱さを表現する)の共有」。
教室全体が“挑戦と学び”の場になり、子どもたちの成長意欲を引き出します。
「なんでそう思ったの?」「もし違う考えがあるとしたら?」といった問いを通して、
教師が答えを教えるのではなく、考えを深める対話の場を授業で設計する先生もいます。
これは、ICFの「気づきを引き起こす」「学習と成長を育む」に直結し、
クラス全体の“思考の質”に作用します。
上記のようなことを地道に積み上げていくことで、
場に作用させ、雰囲気を作り上げていく。
そうすると集団のマインドセットが出来上がり、そのマインドセットが
生徒一人一人に作用し始め、学習に効果的な姿勢が出来上がる。
うまくやっている先生はコーチングスキルをこのように使っていると思います。
1対1になる場面だけではなく、教育活動のあらゆる場面を
コーチングの場と考え、マインドを醸成する方向に向けて
関わりを積み上げていっているのです。
講演の中では、コーチングの4つの要素を散りばめて取り組んだ、
宇都宮大学でのiP-Uプロジェクトを事例として紹介しました。
参考資料:
●宇都宮大学 iP-U成果報告書
https://www.jst.go.jp/cpse/gsc/about/h27_seika/h30_seika_utsunomiya.pdf
個人へのパーソナルコーチングだけでなく、
グループコーチング、スタッフ全体へのコーチングマインドの浸透などによって、
非認知能力の育成や学習成果の向上に寄与している実践例も紹介しました。
3年ぐらいたった時から、全国大会で賞を取ってくる生徒が出始め、
いわゆる強豪校のようになっていったように思います。
教育や企業の現場にコーチングを導入し成果を目指すには、
単なる1対1を行うだけではなく、全体のどの要素に
アプローチしていくのか、構造と設計が必要です。
その部分を整えていくことで、コーチングは1対1の枠を超えて、
“場”全体を動かす力になり、その場が成果を出す環境となって
作用していくことでしょう。
*講演内容について、当日受講された方がご自身のNOTEで
丁寧に紹介してくれていましたので雰囲気を感じたい方は下記をご覧ください。
・NOTE:なほ|ライフコーチ 好奇心がコンパス
https://note.com/naho_2018/n/n956238107963
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