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メルマガ「共創コーチング®」稲垣 友仁

【共創コーチング®コラム】あえて「教えない」事で成長を促す〜教育現場で活きる「シーソーの法則」〜

指示通りに動けないサッカー部

おはようございます。稲垣友仁です。

「何やってんだ! さっさと足動かせ!」
「右だろ!右―!、もっと周りをみろー!」

僕は毎日のようにそう叫んでいました。中学校の部活動で、サッカー部顧問をしていた時の事です。当時の僕の教え方は、「体育会系」のやり方でした。スパルタ式と言っても良いかもしれません。

とにかく俺の言う通りにしろ、というような怖いコーチだったと思います。試合中にも、よく声を出して選手たちに指示を出していました。

子どもたちに成功体験をしてもらいたいという思いもあり、戦略を練り、一人一人の特性も見極めた上で指導しているつもりでした。最善を尽くしたつもりでした。

しかし、僕の指導するチームは、よく負けていました。選手それぞれのポテンシャルが高くても、連携が取れていないのか得点に繋がらないのです。

選手たちの得意・不得意を理解した上で試合に挑みました。けれども、僕が子どもたちに言えば言うほど、動きが鈍くなります。ピタッと、止まってしまうんです。彼らの足が。

自分たちのチームよりも格下のチームにはなんとかこの方法で勝てるのですが、格上のチームとの対戦では、動け、動けと強く言うほど我がチームの選手はフリーズし、何をすれば良いのかわからない様子で、立ち往生してしまう。

「なんで言う通りにできないんだよ……」

こちらの指示に従って動いてさえくれれば、うまく行くはずなのに。
僕は、どんどん自信を無くしていきました。

何がいけないんだろう?

理由が分かったのは、コーチングを学んでからでした。

「シーソーの法則」が働くと動けなくなる理由

サッカーの指導に活かせるかもと、コーチングのノウハウを勉強し、様々な本を読み漁るようになりました。すると、「教える者」と「教わる者」の間に、ある関係性が生まれることに気が付きました。

それを、僕は「シーソーの法則」と名付けました。
シーソーは、どちらか一方に重みが乗ると、テコの原理でもう一方の位置が上がりますよね。逆に、一方が力を入れて上にジャンプすると、もう片方の位置が下がります。あれと同じ現象が、人間関係でも起こり得ると分かったのです。

例えば、分かり易いのが親子関係です。

みなさんも、子どもの頃に覚えがありませんか?

今日はもうゲームもやったし、さて、そろそろ宿題に取り掛かるかー、とランドセルから教科書を出そうとした矢先、
「ねえ、宿題やった? 早くしないと寝る時間になるわよ。隣のクラスの田中くんはお風呂に入るまでに全部済ませているって言ってたけど、あなたはまだやってないの? それと、洋服脱ぎっぱなし!いつもきちんと洗濯機に入れろって……」

母親に小言を言われ、「今やろうと思ってたのに!!」と一気にモチベーションが消失してしまった事が。

これは、「教える者」と「教えられる者」の関係性において、非常によく起こります。指導者の力が入れば入るほど、相手の力が抜けてしまうのです。

・先生が力んで話せば話すほど、生徒が眠くなる
・妻がダメ出しばかりすると、夫が家事・育児をやらなくなる
・上司が仕事をやりすぎると、部下が仕事を積極的にやらなくなる

など、一方の立場が上がると、もう一方が下がってしまうという関係性は色々なところで見られます。一方が「主体」を取りすぎると、もう一方が「依存」状態になると言っても良いでしょう。つまり、言われるがまま動くだけになり、自分の頭で考える力が衰えてしまうのです。

相手を変えようと思って頭ごなしに言い続けても、効果がありません。教わる側のやる気が下がり、学ぼうとする姿勢でなくなってしまうからです。

では、どのような教え方をすれば良いのか?

今度は、発想の転換です。
シーソーの法則が働くのであれば、それを逆手に取ってうまく利用してしまえばいいのです。

「教える事」が必ずしも成果に繋がるわけじゃない

教える側の立場がシーソーで上がると、教わる側の立場が下がる。ということは、教える側が下がれば、教わる側は上がるのです。

少々遠回りに思えるかもしれませんが、自分を下げることによって、相手が自発的に行動するよう促すのです。

親子関係であれば、例えば、親が子供に「教えてもらう」立場をとる。

「お母さん、これって何か知ってる?」
「何これ? 知らないなあ。教えてくれる?」
「これはねえ、僕が見つけたんだよ。珍しいものなんだって」
「へ~、すごいねえ。どこで見つけたの?」

というように、子供に「教えてもらう」位置に下がって相手の話を聞く。こうすると、相手は自分の話ができるので主体的に考えて動けるわけです。

この突破口を見つけてから、僕のサッカーチームも変わっていきました。選手たちも生き生きと自ら動くようになりました。

その時、僕は心底思いました。ああ、「教える」事が、必ずしも成長に繋がるわけではないんだ、と。今思えば、試合中にあれこれ命令されていた選手たちは、さぞ動きづらかったでしょう。

あえて「教えすぎない」事が、巡り巡って相手の変化に繋がる場合もあるのです。

僕は現在も、仕事や日常生活の中で「指導者」の立場になる機会があります。そんな時は、いつもこの法則を忘れないようにしています。

あえて自分の立場を下げて「教えてもらう」側に回るのです。ネガティブな感情も含め、正直な気持ちを打ち明けてみたり、相談してみたり、お願いしてみたり。

そうすると、私が助けてあげようと、自発的に動いてくれる人が増えてくるんですよね。

「自分の立場を下げる」と言うと、教える側がそんな状態になっていいのかと不安になる方もいるかもしれませんが、何も難しいことはありません。うまく相手に頼る事が、相手のためになり、自分のためになり、そして、チーム全体のためにもなるのです。

自分が頑張らなきゃと、一人で抱え込んで無理する必要はありません。

無理に動かそうとするのではなく、どんな伝え方をすれば動いてくれるだろうか?と、シーソーの法則を思い出ながら指導してみてください。

さて、来週は、シーソーの法則を踏まえた上で、より多くの人に影響を与えたいと思った時に使える「伝染の法則」についてご紹介します。

 

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【共創コーチング®コラム】一人の熱が組織全体を動かす ~教育現場で活きる「伝染の法則」~
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