おはようございます。稲垣陽子です。
Aさんは、高校の英語の教師。
10年くらいでしょうか、私はAさんのコーチをしています。
Aさんは、コーチングを生かしながら、教科・進路・生活指導を行っています。
Aさんのすごいところは、個々の力を伸ばしながら集団を変えていくところ。
現在高校3年生を受け持っていますが、学年全体の偏差値が例年の3年生と比べて、3ポイント上がったそうです。
Aさんは何をしていたのでしょうか。
まず、高校2年生の途中から、Aさんは毎日、朝の自習時間の5分で解くことができるプリントを配りました。
表面は、簡単な単語や文法の穴埋めで自習時間中に取り組み、自分で答え合わせができます。
そして、裏面には文章題が書いてあります。これは、任意ですが、次の日の朝までに提出すれば、解答をつけて返却するというものでした。
ここまではよくある話。
でも、Aさんは、自分が担任しているクラスには、「任意だけれど裏面も解いて全員提出するように」と告げました。
その理由である、積み重ねは必ず力になる、ということも例え話などを織り交ぜながら何度も伝えました。
当然ですが、すぐにクラス全員が出すことはありません。
でも、Aさんは出さない生徒を叱ったり、怒ることはありませんでした。
休み時間や掃除の時間に出してない生徒を見かけると、そっと近寄り、
「今日は朝のプリントが出てないけれど、どうしたの?」
と理由を聞きました。
理由を聞かれると、多くの生徒は「やらない理由」を言います。
でもAさんは「それはしょうがないね。明日は出してね。」とは言いません。
「今から何をするの?」とさらに聞き、明日までで10分間それに向き合う時間はないのかと、聞いていきます。そして明日までに出すように促していきます。
それを繰り返していくと、生徒も「出さないと聞かれる」状態になり、出さないよりも出す方が楽だということがわかります。
またプリントの回収箱にわざと透明の引き出しを用意し、クラスごとに入れるようにしました。
すると、Aさんのクラスだけプリントがたまるのがすぐにわかります。
それを見た他のクラスの担任の先生が、Aさんに何をしているのか聞いてきて、そのクラスも全員提出を促すようになりました。
また、授業では、さりげなく今日のプリントに書いてあった文章題に触れるようにしました。
「文章題でも同じようなことが書いてあったね」など。他のクラスの生徒たちにも読んでおいたほうがいいな、という雰囲気を作っていきました。
その他、挙げればきりがないくらい、たくさんの試みをして、生徒や先生を巻き込み、結果、学年の半分以上は毎日プリントを提出するようになりました。
他にも、高校2年生の段階では「英語を身近に感じてもらう」ことを意図して、授業での取り組みや宿題の出し方なども工夫しました。
そんな活動を通して、Aさんのすごいところは、理系の生徒たちから
「英語が面白い」「英語が好きだ」
という感想が出るようになったことです。
今日学んだことが、すぐに生かされる。分かるところがあれば面白い。
理系の生徒の「英語好き」が増えたことで、3年生になって専門科目の勉強が中心で英語が疎かになることを防ぐことができました。
最終的な結果はここからですが、Aさんの取り組みが来春の生徒たちの笑顔にきっと繋がってくるだろうと、私は信じています。
何か新しい試みをするとき、「やっとけよ」だけではやる人はやるし、やらない人はやらない、ということが起こります。
そしてやらない人に対しては、「やれと言ったのにあいつはやらない人だ」と思うようになります。
でも、Aさんは「工夫次第で人は主体的に継続することができる」と言い切ります。
そのために「やれ、やれ」と言ったり、処罰を与えるのではなく、施策を施し、しょっちゅう個別に声をかけ、全体には、継続してやる先に見える世界は、今はまだ見たことのない世界だと伝え続けます。
ようは、見えない未来に向かって、一人一人の主体性をうまく活用し、全体を巻き込んで、進んでいきます。
Aさんが毎週書いている学級通信に、今週はこんな言葉がありました。
「人が本当に目指すべきものは初めから見えているわけではありません。
試行錯誤を繰り返す中で、次第にあるいはある時ふっと与えられてきたはずです。だからこそ、プロセスの中で手にした様々な思いを、あなただけの宝物として胸に抱き続けてください。……このことは、単に大学入試という進路を実現するためだけではなく、人としてこの先の人生を生きていく指針となるものです……」
学校現場の取り組みですが、これはプロセスに意図を持ち結果につなげる例として、組織やチームにも応用できる取り組みだと思い、紹介させていただきました。
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