

おはようございます。共創コーチングの稲垣友仁です。
この数年間、大学院で深掘りしてきたテーマ「vulnerability(ヴァルネラビリティ:弱さや不完全さをさらけ出す勇気)」。
前回の僕のメルマガ(2026年3月30日)では、大学院修了のご報告とともに、修士論文のテーマであるこの「Vulnerability(弱さをさらけ出す勇気)」の本来の意味とその重要性について解説しました。
リーダーが完璧の鎧を脱ぎ「弱さ」を開示することが、組織の深い信頼や心理的安全性に繋がるという内容です。
学校の先生や、組織のリーダーは「常に強く、正しく、完璧でなければならない」という鎧を着てしまいがちです。しかし、実はその鎧を脱ぎ、自分の弱さや失敗を開示することこそが、相手の主体性を引き出し、深い信頼関係を築く鍵になります。
本日のメルマガでは、少し長めになりますが、私の研究データから見えてきた「vulnerability」の特徴を、明日からの現場でどう活かせばいいのかについて、紹介させていただきます。
そもそも、なぜ私が「vulnerability(弱さをさらけ出す勇気)」というテーマに行き着いたのか。その原点には、教員時代に出会った一人の「すごい先生」の存在と、私自身の強烈な挫折体験があります。
その先生は、とにかく圧倒的でした。 荒れ果てた学校に赴任しては、たちまち学校を落ち着かせ、立て直してしまう。さらに、その先生が育てた生徒たちは、別のクラスや集団に入っても自ら活発に動き出し、結果として周りの学力まで引き上げてしまうような、不思議な影響力を持っていました。
「自分もあんな素晴らしい先生になりたい!」 若かった私は強く憧れ、その先生の指導法や声かけを必死に真似しました。しかし、どれだけ頑張っても思い通りにはいきません。上辺の技術をなぞっても、生徒の心には届いていない虚しさを感じる日々でした。
「あの先生の、本当のすごさは一体何なんだろう?」
その答えを知りたくて、私は後年、その先生の教え子たち(当時から20年が経ち、すっかり大人になった卒業生たち)にインタビューをして回りました。
そこで彼らの口から出てきた言葉は、私にとって衝撃的なものでした。 彼らが強烈に覚えていたのは、先生の素晴らしい授業のテクニックでも、厳しい指導でもありませんでした。
「あの先生は、自分の失敗や弱さを隠さずに見せてくれた」
「ごまかさず、いつも率直に、一人の人間として本音で語ってくれた」
彼らの心に深く刻まれていたのは、先生の「完璧さ」ではなく、むしろ「不完全さをさらけ出す姿(vulnerability)」という人間性、人間としてのあり方だっただったのです。
その時、ハッと点と点が繋がりました。 思い返してみれば、私がこれまで出会ってきた「本当にすごい」と心から尊敬できる先生やリーダーたち全員に共通していたのが、まさにこの「鎧を着ず、自分の弱さをさらけだすキー(鍵)」を持っていたことだったのです。
しかし、頭で「それが大事だ」と気づいても、現実はそう簡単ではありませんでした。
中学校で体育の教師をしていた当時の私は、
「教師たるもの、生徒の前で弱みを見せてはいけない」
「舐められてはいけない」
という思い込みに縛られ、自分を守るための分厚い鎧をどうしても脱ぐことができなかったのです。自分の弱さをさらけ出すことがどれほど怖いことか、私自身が一番よく知っていました。
「どんな特徴や信念を持った先生が、このvulnerabilityを発揮できるのか?」
「そして、私のように鎧を脱げなかった人間は、一体どのようなステップを踏めば、弱さをさらけ出せるようになるのか?」
一部の「すごい先生の天性の才能」で終わらせてはいけない。多くの先生が苦しんでいる「完璧主義の鎧」を脱ぎ、実践している先生たちの「心が変化していくプロセス」を解明したい。
それが、私がこの数年間、大学院という学問の場に身を置き、この「vulnerability」というテーマを研究し尽くそうと決意した最大の理由でした。
上記の、0.のような理由を解明するために、今回は2つの研究を行いました。
1つ目の研究1では、何百人もの先生方のデータを分析した結果、「弱さをさらけ出す(vulnerability)」というのは、単なる「愚痴を言う」「泣き言を言う」といった一つの行動ではなく、人によって様々な側面を持つ深い概念であることがわかりました。
そして最大の発見は、「成長マインドセット」という信念(「人間の能力や才能は生まれつきのものではなく、努力や経験によって後からいくらでも伸ばすことができる」と信じる心のあり方)を持っている人ほど、vulnerabilityを高く発揮できているということです。
「人はいつでも、どこからでも成長できる」そう信じているからこそ、「今の不完全な自分」「失敗した自分」を隠すことなく、ありのままに見せることができるし、何より失敗を怖がらずに成長のために行動している様子が浮かび上がってきました。
では、現場の先生たちは、どのようにしてvulnerabilityを高めていったのでしょうか。
私は中学校の教員時代、体育を担当していました。当時は弱さを見せないでやっていたので、「現場の先生方はどうやってvulnerabilityを高め、具体的に弱さや自分をさらけ出していったのか」を深く知りたいと思い、15名の教師にインタビュー調査(研究2)を行い、教師のあり方が変化していく具体的なステップを調査しました。
第1段階:安全基地づくり(同僚からの受容)
最初は、やっぱり「教師たるもの弱さを見せない」という言葉があるように、いきなり生徒や部下の前で弱さを見せることはできていない方が多かったように思います。しかし、若手はわからないことが多いので、生徒や親からの苦情など、弱さをさらけ出さざるを得ない状況がたくさんありました。 それについて悩み落ち込んでいる時に、職場の同僚に「どうした?」と聞いてもらう場面があったり、「実は今、これで悩んでいて…」と打ち明けざるを得ないような状況があったり、または同僚の先生から「僕もそういう時あった、その時は〜したよ」とうアドバイスなどがあったそうです。このように自分の弱さに対して先輩や同僚から受容と共感を持って関わってもらった経験。これが自分の弱さを受容する基盤になっていました。この「弱さの受容」がvulnerability全体の基盤になっていたことがわかりました。
第2段階:意図的な開示と、安心感の波及
自分が受容された安心感の体験を元に、弱さを徐々に受容できるようになってきた教師は、教室でも「先生、ここ間違えちゃったよ」と意図的に弱さを伝えてみます。すると、子どもたちの表情がホッと緩み、「あ、失敗してもいいんだ」という安心感がクラスに広がることに気づきます。 そのような中で、自分の失敗談や体験を語ることが生徒の注意を惹きつけたり、教室に心理的な安心感が生まれて挙手が多くなるなど、意見を言いやすい雰囲気ができることに気づいていきます。
第3段階:「役割」ではなく「人」として対等に向き合う
ここが最大のブレイクスルーです。その後、vulnerabilityを教室で使っているうちに、「教える側と教えられる側(教師ー生徒)」という上下関係を手放し、一人の人間として対等に向き合うようになります。 例えば、子どもがルールを破った時。 「だめじゃないか!(コントロール)」と正論で叱るのではなく、「そんなことされると、先生は悲しいし、いたいじゃないか(自己開示)」と、生身の感情をさらけ出して関わる段階へと変化していき、それが相手の生徒の態度を変化させるポイントになっていたのです。
第4段階:集団の成長マインドセットの具現化
そのようなポイントを掴んだ教師のクラスは、最終的に「失敗を歓迎する場」に変わっていきます。 誰かがミスをした時、先生が率先して「〇〇さんの間違いのおかげで、みんなが新しいことを学べたね!」と価値づけを行うなど、教師自身のvulnerabilityが、クラス全体の「成長マインドセット」へと昇華されていました。
この研究から、教育現場やマネジメントにおいて私たちが明日からできる「3つのヒント」は何か?
①まずは職場で「弱音」を吐ける環境を作り出す
リーダーや支援者こそ、孤独になりがちです。まずは同僚や、私たちのようなコーチなど、「この人になら弱さを見せても大丈夫」と思える人に、今の葛藤を話してみてください。受けてもらえることで心理的変化を感じてみてください。またぜひ聴く側に回った方は、受容と共感で受けとめてあげてください。
②「役割の言葉」から「私(I)は、の言葉」に変える
「上司として」「教師として」正しいことを言うのではなく、「私個人として、こう感じている」という主語(Iメッセージ)で、本音や痛みを伝えてみてください。それが相手の心を開く鍵になります。
自分の何気ない体験談や失敗談を語ることも相手との距離を縮める機会になるかと思います。言い過ぎると逆効果にもなるので適度に。
③チームの「間違い」を学びのチャンスとして称賛する
部下や生徒が失敗した時、「誰のおかげでこの新しい課題に気づけたか?」という視点に立ち、「失敗を隠さない態度」「失敗が成長の価値になること」などを承認しあっててみてください。
④弱さが逆効果になることも知っておく
なんでもかんでも弱さを言えばうまくいくかというとそうではないことはわかりますよね。自分が嫌だからという理由でできない理由を弱さで語っても周りからは不信感が出ます。「自分は〜のような弱さがある、でも頑張って目標に向かってやってみる」というような努力の姿勢を見せないとvulnerabilityは相手に逆効果として届いてしまうことは忘れてはいけない点かと思います。
そこに勇気が伴っているかどうかが、vulnerabilityになるかどうかのポイントになります。
「弱さをさらけ出す」ことには、確かに勇気がいります。 しかし、その勇気こそが、相手との間にある壁を溶かし、集団における心理的安全性や信頼感の土台となるのです。
本日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
共創コーチング
稲垣友仁
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