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メルマガ「共創コーチング®」稲垣 友仁

【共創コーチング®︎コラム】共創で、ウェル・ビカミング(Well-Becoming)

おはようございます。共創コーチングの稲垣友仁です。
新しい一週間の始まり、いかがお過ごしでしょうか?

今週のメルマガでは、私たちが日々探求している
「共創(Co-Creation)」という概念が目指す所、
「生成(Becoming)」という視点について、皆様にご紹介したいと思います。
少し難しいかもしれませんので、最後にインフォグラフィックという
Aiが書いてくれた絵をつけて理解を深めていただければと思います。

共創とは、単なる協力ではなく「新しい価値の生成」

近年、「共創」という言葉は、ビジネスや教育の現場で広く使われるようになりました。
しかし、この言葉は単に「協力して何かを創ること(協働)」だけを意味するものではありません。

共創コーチングが伝えたい「共創」は、
「自分の力だけでも、相手の力だけでもなく、
自分と他人の力を最大限に合わせて新たなものや価値、視点を創り出す」という、
これまでここにはなかったものを
今ここに出現(生成)させることが共創の本当の価値だと思っています。

共創の根幹にあるのは、「共に創る」という姿勢です。
これは、一方的に答えを導くのではなく、相手と同じ対等な立場に立ち、
「何が大切なのか」「どう在りたいのか」を共に問い、考えるプロセスです。
このような共創のコミュニケーションは
「人と人との掛け算」によって生まれると考えています。

例えば、部下や子どもに対して、頭ごなしに「なぜできなかったのか」と問うたり、
「こうしなさい」という最初から上司や親が持っている答えに
予定調和として落としこむのではなく、
「どうしたら次はうまくいくか」を一緒に考えるという、
上司や部下も何が答えになるかわからないけど、
互いに問い合いながら新たな解決法を今ここに出現させる(生成)。

そのような共創のためのコミュニケーションは
「する・される」関係から「共にある」関係へ、
さらに「共になる」関係へと深化していくことが共創が目指す場所となります。

世界のコーチングの潮流も、今、「個」の内面を扱うことから、
「コーチとクライアントが共に創り出す関係性」
そのものの力を重視する方向へと大きく変わっています。

ウェル・ビーイングから「ウェル・ビカミング」へ

先日、1月17日にオープンセミナーにご登壇いただく、
共創学会の理事であり早稲田大学名誉教授の三輪敬之先生と、
講演内容に関する打ち合わせを行いました(講演詳細は下方記載)。
その中で、私たちが目指すべき共創の未来について、非常に重要な示唆をいただきました。

三輪先生は、現代社会で重視されている「ウェル・ビーイング(Well-Being:よき状態)」
という概念を超えて、「ウェル・ビカミング(Well-Becoming:よき生成)」
という概念を提唱されています。

ウェル・ビカミング(well-becoming)とは、
「環境と他者と共に、よくなること」を意味する概念です。
この概念は、従来の「ウェル・ビーイング(Well-Being)」が持つ限界を乗り越え、
より深い変容と生成のプロセスを重視しています。

従来のウェル・ビーイング研究は、個々人に注目するあまり、
関係性の次元が比較的見過ごされてきたという課題がありました。
ウェル・ビカミングの視点は、「わたし」個人だけではなく、
「わたしたち」という複数形の関係からウェル・ビーイングを捉えるための実践に基づいています。
この「ウェル・ビカミング」は、従来のウェルビーイングが
自己変容に至らずに終わってしまう可能性を乗り越え、
「新たな自己が次々と生成されていくプロセス」を重視することで自己変容を可能にします。

共創が目指すのは、自己の拡張や世界の変容に留まらず、
新たな自己が次々と生成されていくプロセスを重視する「ウェル・ビカミング」の実現です。
私たちは、この「生成性(Generativity)」こそを
共創の本質として探求していく必要があるのです。

日本的な感性と「秩序とカオス」

この深い共創の哲学は、
私たち日本人にとって親和性の高い文化的な背景を持っています。

日本文化には、古くから「個」よりも「全体」、
あるいは「間(あいだ)」を大切にする感性があり、
自分自身を他者や場との関係性の中で捉える視点があります。

さらに深く根ざしているのが「自他非分離(じたひぶんり)」という東洋的な感覚です。
これは、自分と他者を明確に線引きせず、
「あいまいでありながら、つながっている」状態の中でこそ自己が成り立つという考え方です。
境界が曖昧であるからこそ、役割や立場で明確な線を引かず、
共にそこにいて、見えない変化や違和感を
丁寧に聞き取るという柔軟な在り方が可能になります。

しかし、三輪先生は、この「自他非分離」を過度に推し進めると、
他者の異質性や固有性を無自覚のうちに同一化し、
他者の違いを抹消してしまう危険性があるという点にも触れていました。

真の共創の場とは、自他分離と自他非分離の対立を超え、
そのどちらでもない「生成の場」を志向しなければなりません。
新しいものが立ち上がるためには、単に心地よく静的な場ではなく、
「秩序とカオス(無秩序)が交錯する動的な場」が必要です。
場が壊れることを恐れず、外部の逸脱を受け入れ、それによって新しい場が生まれるという
ダイナミクスを許容する姿勢が、共創を促すのです。

スキル化の限界

共創は、ロジカルに説明された理論や、
マニュアル化された「スキル」だけで実現するものではありません。
理論は実践の後から語りやすいものであり、実践の中にこそ理論が内在しています。

共創的な営みを過度にスキル化しようとすると、
かえってその生成性から離れてしまう懸念があります。
私たちは、コントロールを手放し、失敗や弱さ、不器用さを含んだ関わりこそが、
発(新しいものが偶然に立ち上がること)の契機となることを知っています。

今後は、人が人と対話することで得られる価値を最大化するために、
表面的な協力ではなく、根源的な多様性と、こうした柔軟な「場」の在り方が、
職場や社会全体で不可欠になっていくでしょう。

今週の共創的な関わりを意識する

今週、あなたが誰かと関わる場面で、意見や立場、
あるいは考え方や感覚の「異質性」を感じたとき、それをすぐに「収束」させようとせず、
その違和感や混沌(カオス)を場の中にどう受け入れるかを意識してみてください。

「共に問い直す」「一緒に意味を探す」という姿勢を通じて、固定された関係性ではなく、
常に変化し生成していくというダイナミクスを許容するとき、
あなたのまわりには新しい共創の風が吹き始めるでしょう。

よい一週間をお過ごしください。

共創コーチング 稲垣友仁

参考文献:『場と共創』(NTT出版)

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【共創コーチング®︎コラム】無自覚な「驚き」がコミュニケーションに誤解を招く